ルーテル教会は世界最大のプロテスタント教会であり、伝統的なキリスト教会です。式文(リタジー)を用いて礼拝を行います。

バイブルエッセイ

11月の男

   ドイツの南部にシュヴェービッシュ・ハルという小さな古い街があります。その街の中心のマルクト広場の片隅に、Waldemar Ottoという現代芸術家が作成した一体のブロンズ像が立っています。ポケットに手を突っ込み、うつむき加減で陰鬱な表情を浮かべて立ち尽くしている、痩せたこの男の像には「11月の男(Mann im November)」という題が付けられています。なぜ11月の男なのでしょう?
   実はドイツ人に、あなたの一番嫌いな月はいつ?と聞くと、ほとんどの人は「11月」と答えるそうです。えっ11月が一番嫌い?私の中での11月のイメージといえば、以前京都にいた頃の記憶、たくさんの観光客が押し寄せる、秋の深まる一番美しい賑やかな季節、というものでした。それなのになぜ?と疑問に思ったのですが、実際に11月のドイツを体験してその理由がわかりました。11月、美しい秋はとうに過ぎ去り、冬の戸口に立ちつくしたまま、日ごと確実に昼が短くなる中で、薄暗く肌寒く、しょっちゅう冷たい雨が降り、時には雪が降ってはすぐに溶けてじめじめする。そんな感じの季節なのです。そして、それはいわば、夏から秋にかけては自分のすぐそばにあったはずのいろいろな楽しいものや心地良いもの、例えば暖かな日の光であったり、爽やかな風であったり、目を楽しませる花や緑であったり、そういったものが、次々に失われてゆく時なのです。ブロンズ像「11月の男」がなんとも寂しそうな顔をしているのは、きっと自分からあらゆるものが失われてゆく時にじっと耐えているからなのでしょう。
   それではドイツ人が一番好きな季節はいつでしょうか?多くの人がなんと「12月」と答えるそうです。その理由を、ドイツ語学校のある先生は「クリスマスを迎える12月は光の季節だから」と教えてくれました。北半球での冬至の時期と重なるクリスマスは、1年で一番夜が長くなる時でもあります。日本よりも緯度の高いドイツの12月には4時には日が沈み、8時になってやっと夜が明ける日が続きます。ですから12月は本来11月よりもさらに風は冷たくなり、草花は枯れ果て、夜の闇は増してゆくそんな季節なのです。しかし、クリスマスのために準備していく4回の日曜日、アドベントの時の間に、街はますます光に溢れていきます。人を取り囲む闇が深くなればなるほど、光もまた強く輝き始めるのです。
   ブロンズ像の「11月の男」は悲しげな表情のままで時間を止めてしまっています。しかし、今を生きている私達には、あらゆる物が自分から失われてゆくようにしか見えない時のその向こう側から、光溢れる時が確実に近づいているのです。(L)

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